東京地方裁判所 昭和38年(ワ)2202号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判決理由】原告は昭和三十四年六月ごろから甲商品を販売しているのであるが、右販売に際し一貫して甲商品に原告の商号を付するとともに、原告の標章たる「JEMCOR」の文字をも付し、原告の商品として宣伝し販売していること、一方、甲商品の購入者においても甲商品は原告の商品として取引していることを認めることができ、右事実によれば、甲商品は原告の商品すなわち甲商品の出所は原告であるとするのが相当である。他に右認定を左右すべき証拠はない。
この点に関し、被告は、甲商品は斉藤の設計製造にかかるから、原告の商品ではなく、斉藤の商品である旨主張するがその商品の出所を判断するには、現実にその商品を製造したか否かによるものでなく、もつぱら、その商品が取引者又は需要者の間において、どこの商品として流通しているかによるべきものであることは社会通念上明らかなところであるから、現実に斉藤が製造したことを理由とする被告の右主張は採用の限りではない。
二、商品の形態が不正競争防止法第一条一号にいう表示に含まれるか。
原告は、甲商品の形態それ自体が原告の商品たることを示す表示であると主張する。商品の形態は、本来、その商品の有する機能を合理的に発揮させるとともにその美観を高めることを目的とするものであり、商標のように、もともと商品の出所を示すためのものとは異るけれども、副次的にもせよ商品を個別化する作用をもつことは否定しえないところである。しかして、不正競争防止法第一条一号にいう表示は、商品の出所を示すことを本来の機能とするものに限らず、本来の機能とは別個に商品を個別化する作用をもつものをも含むことは、容器包装が表示の一例として示されていることからも明らかであるから、商品の形態も、また、表示に含まれるとするのが相当である。したがつて、甲商品の形態それ自体が原告の商品たることを示す表示にあたること(但し、右が周知性を有するか否かは、別個の問題である)は明らかというべきである。
三、甲商品の形態が原告の商品たることを示す表示として広く認識されているか。(中略)原告は資本金二千五百万円の会社で、昭和三五年ごろから甲商品の販売を始め(もつとも、それ以前にもワイヤレス・マイクロフオンを販売していたのであるが、その形態は甲商品と異つていた。)当初は、一カ月約五台程度であつたが、昭和三十七年十月ごろには一カ月平均十二、三台の売上があり、その納入先も放送局関係、学校、劇場、商事会社等関東地方を中心として約九十カ所に及んでいることを認めることができるけれども、商品の形態それ自体が商品の出所の標識力として周知性をもつに至つたというためには、形態の本来的機能が商品の出所の表示にあるのでなく、商標などの商品の出所の標識を本来の目的とするものと異ることは前に述べたところであるから、単にその形態が一定期間使用されたというだけでは足りず、更に、その形態が同種の商品の中にあつて排他的、独占的に使用されてその形態のもつ特色(個別性)が取引者又は需要者間に認識されることを要するというべきであるから、右事実のみによつて直ちに甲商品の形態が周知性を有するに至つたとすることはできない。かえつて、(証拠―省略)によれば、当時原告以外の会社で販売していたワイヤレス・マイクロフオンの形態も極めて甲商品の形態に類似しているばかりでなく、この種ワイヤレス・マイクロフオンは値段の高価なこと及びその機能の特殊性から需要者の層も限られ、その販売に際しては販売業者の使用説明を要することが屡々であるため店頭販売の方式よりもセールスマンによる直接販売の方式がとられることが多いことから、取引者及び需要者間においても、その形態そのものを商品の出所の標識として認識する度合がはなはだ少い状況にあることを窺うことができるのである。
したがつて、甲商品の形態が原告の商品たることを示す表示として周知であるという原告の主張は理由がないというほかはない。 (三宅正雄 太田夏生 荒木恒平は転補につき署名押印することができない)